樽前山は過去に幾多となく大噴火を繰り返し、噴火で発生した火砕流は樽前山の麓を埋め尽くして現在の広大なすそ野を作り出した。
苫小牧から白老へかけて太平洋沿いの道路を走ると、この樽前山の姿とそのすそ野の雄大な広がりがとても印象的である。
この付近には、オートリゾート苫小牧アルテンとかポロト湖のキャンプ場など魅力的なキャンプ場もあり、アルテンの横を流れる覚生川、ポロト湖へ注ぐ小さな小川と、いずれも水の澄んだ美しい流れがキャンプ場の魅力をより高めている。
その他にもこのあたりには沢山の川が流れているが、これらは全て樽前山からの湧水が源流となり、そのまま何もない森の中を流れてくるので、汚れを知らずに太平洋まで達する川ばかりである。
美しい森と美しい川、これこそが樽前山南麓の最大の魅力だろう。
そしてこの川が、長い年月をかけて火山灰が降り積もった台地を浸食し、作り上げた作品の一つが樽前ガローである。
表面を60種類以上の苔に覆われた高さ5mの切り立った崖、その崖に囲まれた空間を樽前川の美しい水が流れる様は、まさに清涼感にあふれた別世界だ。
樽前山を挟んだちょうど反対側の支笏湖に面する部分にも同じような地形があり、「苔の洞門」として人気の観光スポットになっている。
苔の洞門には水が流れていなくて、以前はその中を自由に歩くことができた。残念ながら、現在は落石の恐れがあるために閉鎖されてしまい、入り口近くの観覧台からその様子を眺めることしかできない。
それでもここの駐車場は、観光シーズンには大型の観光バスや行楽の乗用車で一杯となり、相変わらずの人気を呈している。
今となっては樽前ガローの方がはるかに見応えのある場所なのに、一般の観光客が訪れることはほとんどなく、周りの森に鳥のさえずりが響くだけのとても静かな環境が保たれている。
支笏湖から洞爺湖へ続くドル箱観光ルートの途中に位置する苔の洞門と、苫小牧から室蘭の工業地帯を結ぶルート上の樽前ガローでは、こんなにも大きな差があるのである。
国道36号線から樽前ガローの標識に従い4kmほど山の中に進むと、駐車場がある。
苔の洞門と違い、樽前ガローはその中を川が流れているので、途中に架かる橋の上からその姿を楽しむしかない。
駐車場の隣の橋、そしてそこから1kmほど上流に「樽前なかガロー橋」という名前の人道橋があるので、その2箇所が樽前ガロー見学スポットと言えるだろう。
「樽前なかガロー橋」の直ぐ近くまで車で行けるので、駐車場近くの橋からガローを見た後は、車で移動してこの橋の上からまたガローを眺めて、そしてさようなら。
別にそれでも構わないが、しかしそれでは樽前ガローの素晴らしさを何も感じずに帰ってしまうことになる。
まずは駐車場の橋から「樽前なかガロー橋」までを歩いてみたい。
樽前川の左岸(下流に向かって左)沿いに、車が1台やっと通れるくらいの道がついている。この道には車でも入ってこられるが、爽やかな雑木林の中を抜ける道は、車で走るにはもったいなさ過ぎる。
鳥の声に耳を傾けながら歩いていると、直ぐに「樽前なかガロー橋」までついてしまう。橋への道は柵で囲まれているが、この柵を乗り越えれば橋のたもとから下の川まで降りることができる。
そうすると、橋の上から眺めただけでは感じられなかったガローの中を流れるひんやりとした空気に体が包まれる。足元を流れる清らかな水、苔に覆われた緑色の壁に周りを囲まれ、振り仰げば壁の両側から覆い被さる緑の木々の枝越しに僅かばかりの青空が覗く。
周囲から隔絶された幽玄の世界がそこには広がっている。
こうなると上下流に続くガローの様子をもっと先の方まで見てみたくなるが、橋の下の歩ける部分は僅かしかない。川の中を歩こうと思っても、流れも結構早く水深もあるので長靴を履いていたとしても無理だろう。
それでもどうしてもその先へ行ってみたいと言うのであれば、色々な方法が考えられるのでそれは各自の自己責任でチャレンジしてもらいたい。
橋を対岸に渡ると車道へ出るが、こちらは人家があったりして歩くような場所でもないので、もと来た道を引き返すことになる。
左岸の道はもっと上流まで続いているが途中で行き止まりになってしまう。その付近で川へ降りられる場所がないか探してみたが、笹藪がひどくて断念した。
引き返す途中にはもう一箇所ほど下へ降りられる場所がある。こちらの方は上り下りにちょっと苦労するかもしれないが、先ほどの場所よりは美しい風景が楽しめるだろう。
もっと上流にも橋の上からガローを楽しめる場所があるが、そこへは車で移動した方が良い。
その付近ではガローの幅も極端に狭くなり川幅も1m程度だろうか。ここでも橋の下流側から下に降りられるが、あまり下まで降りてしまうと登るのに苦労するから注意した方がよい。(経験済み)
以上が樽前ガローの見学スポットであるが、詳しく探せばもっと良い場所が見つかるかもしれない。
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