北海道の山岳型の湿原と言えば雨竜沼湿原が真っ先に思い浮かぶ。
その他にも大雪山の高根ヶ原、沼ノ原などにも湿原があるが、いずれもそこにたどり着くためには本格的な登山をする心構えが必要になってくる。
ニセコの神仙沼湿原などはハイキング気分で歩いていけるが、人気スポットなので何時も混雑している。
その点、この松山湿原は観光ルートからも外れていて訪れる人も少なく、比較的簡単に湿原までたどり着くことができるお勧めスポットである。
近くには旧国鉄美幸線跡の線路を自分でトロッコを運転して走ることのできる「トロッコ王国」があるので、ここと合わせれば1日楽しくアウトドア体験を楽しむことができるだろう。
トロッコ王国のある仁宇布から道道255号を雄武町方向に3kmほど走ると湿原案内所の小さな建物がある。そこからさらに4kmほど山の中に入ると松山湿原入り口の駐車場に到着だ。
途中には雨霧の滝、女神の滝もあるので、せっかくここまで来たのならば是非見ておきたいところだ。
駐車場から湿原までは900m、30分ほどでたどり着ける。ただし、ずーっと上り坂になっていて足元も悪いので、サンダル履き、ハイヒール等は避けた方が良い。
登り口には根曲がり竹の杖も用意されている。
そこから直ぐのところに「風穴」がある。岩の隙間から冷気が吹きだしている場所だ。私が訪れたときは10月末の寒い日だったので、その冷気を感じることはできなかった。
そこから先はひたすら登りが続く。周囲の森は湿度が高いせいだろうか、苔に覆われている感じだ。湿原からしみ出してきたような水が所々でチョロチョロとしたたり落ちている。
500m程登ったところにある展望台からは回りの山々を見下ろすことができる。展望台と言っても特別な施設があるわけではなく、大きな岩の上に乗って景色を眺めるような場所である。
山道を登り切ってアカエゾマツの林を抜けると目の前に湿原の風景が広がる。湿原入り口には「長寿の鐘」が吊り下げられているので、登り切った嬉しさからついつい備え付けのハンマーで思いっきり鐘を鳴らしてしまう。
そこからは一周1.2kmの木道が続いている。この木道、かなり老朽化しているので歩くときは注意が必要だ。
この湿原で一番印象に残るのは、長い年月風雪に晒されて育ったアカエゾマツの姿だろう。
旭川教育大の調査によると、ここのアカエゾマツは1cm太るのに20年の歳月を要し、樹齢は推定で300年前後の木が多いとのことである。
一本一本がそれぞれ特徴的な姿をしているので見ていて飽きることがない。盆栽の見本園の中を歩いているような気分だ。
湿原の中に生えているアカエゾマツはひねくれた姿なのに、湿原をぐるりと囲むアカエゾマツの林は皆綺麗な樹形をしているのは不思議な気がする。
湿原の中からは周囲に山の姿も見えず、このアカエゾマツの林に回りを囲まれて、他の世界からは隔絶されたような空間になっている。
湿原には、えぞ松沼・つつじ沼・はい松沼と名付けられた小さな三つの沼があり、全体的に厳しささえも感じさせる湿原の中では安らぎの場所といった雰囲気だ。
私が訪れたときは、北西の冷たい風が吹き付け、既に冬枯れの様相になっていた。ギボウシの立ち枯れた姿が、花の時期の美しさを思い浮かばせてくれる。
ワタスゲなど湿原の花が咲きそろう6月頃に、是非もう一度訪れてみたいものだ。
駐車場の隣には天龍沼という周囲400mの小さな沼がある。駐車場の近くから眺めるだけでも良いが、できればこの沼を一巡りしてみたい。
けもの道程度の道しかついてないが、その美しさを堪能できるだろう。
|