賀老高原最後はブナ林の散策を楽しみたい。
狩場山系に広がるブナ原生林の面積は、10,700haで日本一の広さのブナ林である。賀老の滝駐車場を通り過ぎて舗装道路を進むと、太古の森と名付けられたブナ林の駐車場に到着する。
駐車場からは昇龍の橋という吊り橋を渡って森の中へ入っていくが、この橋が絶景ポイントである。新緑や紅葉の時期の眺めは最高である。
この橋の下を流れる千走川が、もう少し下流で賀老の滝となって高さ70mの断崖を流れ落ちているのだ。
橋を渡り、遊歩道を左へ少し進んだところで賀老の滝を上から見下ろせるポイントがある。木の枝が邪魔になり滝の一部しか見られないが、急な階段を下りずに賀老の滝の姿を望める場所はここだけしか無いのである。
この遊歩道はウッドチップで舗装されていて歩きやすく、そのまま一周して昇龍の橋まで戻ってくることができる。
その手前で脇道に入り小さな沢にかかる木橋を渡った先に別の遊歩道がある。こちらの道は舗装されていなくて、より自然なブナ林の散策を楽しめるだろう。
木橋のかかる沢はカサノ沢という名前で、苔生した岩の間を清流が流れるとても美しい場所だ。
両方の遊歩道は8の字を描くように周遊(全長3km)できるので、その中間地点となるこの沢はちょうど良い休憩ポイントになる。
平成16年の台風18号による強風で、賀老のブナ林も大きな被害を受けてしまった。
平成17年の6月に歩いた時点では、林内の方々に倒れたブナがそのまま放置されている状況である。まだ若いブナから樹齢数百年もありそうなブナまで、強風の被害は無作為に及んでいるようだ。
カサノ沢にも多くの樹木が倒れ込んでしまい、以前の美しい景色は見る影もない。
このブナ林がもとの姿を取り戻すまでには、これからまた気の遠くなるような年月を必要とするのだろう。
それでも、現在のブナ林の姿に不満があるわけでは全くない。過去に例の無いような台風の強風を耐え抜いたブナの巨木がまだ沢山残っており、ぽっかりと空いた森の中の空間では、直ぐに新しい命が育ちはじめることだろう。
ブナ林駐車場への道を途中から真っ直ぐに砂利道へ進み、少し進んだ先には樹海の森と名付けられたブナ林があり、そこにも遊歩道が整備されている。(全長1.3km)
こちらの様子も見てみたが、以前の野趣に富んだ遊歩道は倒れたブナの切り出しのために作業道として使われている様子で、現在のところは歩いて楽しい道では無いかもしれない。
しかし、あと数年も経てば、自然の回復力が作業機械の通った道を覆い隠し、もとのような静かな環境を取り戻しているはずだ。
なお、賀老の滝駐車場に設置されている案内看板では、「太古の森」が「ブナ遺伝子保存林遊歩道」、「樹海の森」が「ブナ林散策路」として表示されている。
樹海の森入り口を通りすぎてそのまま林道を先に進めば、賀老高原の広大なブナ林を一望の下に見渡せる絶景ポイントがある。舗装がとぎれてから約5kmほどでそのポイント峰越峠に至るが、かなり荒れた林道なので走行には注意が必要だ。
賀老の滝にブナの森、賀老高原の魅力をたっぷりと満喫するには1日では足りないかもしれない。キャンプ場が併設されているので、そこに泊まってじっくりと時間をかけて歩きたい場所である。
ただし、賀老高原のある狩場山地は熊の生息密度も高い地域であり、森の中の散策時には熊除けの鈴なども準備しておいた方が良いだろう。
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